
それっぽい名前を付けただけです
クラゲの融点
意識と本田原との関係
「宇宙は膨張しているらしい」
そんな話を耳打ちされる機会がくるとは、思ってもみなかった。急になにを言い出しているんだろうか。いや、むしろさすがというべきだろうか。友人・本田原は、いつだって予測不可能な言動をするのだ。
「昨日、偶然知ってしまったことなのだけどね」
なるほど、アホだったか。それは予測できないわけだ。
わたし以外に聞いている人間がいなかったことが、本田原にとって救いだったというべきか。普段は騒がしい教室だが、皆部活に行ったり帰ったりしていて、他に残っている者はいない。わたしと本田原は帰宅部バス通学担当であるため、バスの時間になるまで、いつもここで時間を潰している。
本田原はこれまでも頭の弱い言動をしてきたため、今の発言自体は特別なものでは無い。間違った情報でないこと、話のスケールが大きいことなどを鑑みると、いきなりだっただけで、とてもまともな発言だ。伝説の「プリンに醤油をかけるとウニになるらしい」と、「月にはうさぎが住んでいるらしい」の、足元にも及ばない。
かといって、頭のよくない話だったことに変わりはないが。
「驚いて声も出ないようだね、牛膝」
「そうだね」
驚いたのは本田原の話ではなく、本田原の唐突さと無知加減だが。本田原はわたしの冷めた目にも気づかず、興奮した調子で話を続ける。
「昨日テレビで、宇宙についてのドキュメンタリー映像を観てね、そこで知ってしまったのだよ。宇宙は膨張している。さすがの私も震えたよ、これが宇宙の真実ってヤツか、ってね。この広い宇宙がさらに広くなっているなんて、それこそ天文学的な数字が動く。大事だね」
本田原は天文の言葉の意味を理解したうえで使っているのだろうか。一から百まで当たり前のことしか言っていないが。まあ、おそらく理解していないんだろうな。わたしは本田原に見えないようにして、溜息をついた。
「これを知ることで命を狙われたりはしないかね? いや、まだ親友である牛膝にしか伝えていないがね。牛膝なら、むやみに広めることもないだろうと思ってね。ガリレオの二の舞はごめんだからね」
そもそも、テレビで観ることができる理由を考えてみてほしい。平成も終わるというのに、本田原はいまだに天動説の時代に生きているようだ。
「誰にも話すな……とは言わないがね。話す相手は選んでくれると助かるね」
ようやく本田原が耳元から離れる。その口元は、ニヒルな笑みを浮かべていた。確かに、高校生にもなって、誰彼構わずこんな風に話をしたら、頭の心配をされてしまいそうだ。もしかしたら、本田原を超える人間も存在するかもしれないが。そう考えると、逆にちょっと言ってみたくなる。そもそも本田原は人間なのか、怪しいところだが。
「返事は?」
「……わかった」
反応するのも面倒だったので、とりあえず同意をする。ここでわたしが何も言わなくとも、いつかきっと、優しい誰かが教えてくれるだろう。
「牛膝ならそう言ってくれると思っていたよ、さすが親友だね」
そこまで言われるとさすがに申し訳ない気もしたが、仕方がない。私は自分の気持ちに素直でいたい。
「さて、そろそろのバスが来る時間じゃないかね」
時計を指す本田原。確かにギリギリの時間だ。教えてくれたことに対する感謝の気持ちと、本田原がこの話をしていなければ、普通に間に合うことができたんだろうな、という気持ちがせめぎ合う。帰り支度を済ませておいてよかった。
「じゃあ、帰るね。また明日」
「うん。また明日、牛膝」
普段は本田原も同じバスで帰るが、今日は委員会の仕事があるため、もう少し残るらしい。手を振る本田原に手を振り返して、教室から出る。
「宇宙は膨張する……」
その後ろで、本田原は独り言のように呟いた。
「ならなぜ、人間は膨張しないのだろうね?」
面倒だったわたしは、聞き逃したふりをし、そのまま帰路についた。
バスは目の前で行ってしまった。普段は遅延ばかりなため、定刻より少し遅めにバス停へ行くのだが、今日に限って遅延しなかったらしい。悲しみに暮れつつ、わたしはバスを待った。
話し相手もいないため、てきとうにスマホをいじる。メッセージを返したり、つぶやきを確認したり、いつも通り時間を無為に消費していく。
そうして、気が付くと。
身体が大きくなっていた。
身長が三センチ伸びたとか、体重が二キロ増えていたとか、そういう話じゃない。全身がそのまま巨大化している。それも、現在進行形で。このままの調子で大きくなっていくと、大騒ぎになってしまう。わたしは慌てて、近くの公園に避難した。
運良が良かったのか、人通りの多い夕方にもかかわらず、誰にも見つかることなく到着できた。だがその頃には、二階建ての一軒家よりも高い身長になっていた。生い茂る木の中で丸々ように座ることで、辛うじて姿を隠せるような状態だ。腕や足が窓から突き出したりしていない分、マシというべきか。そもそも魔法のびんの中身を飲んだりなどしていないのだから、マシでも何でもないが。とりあえず、巨大化の波は、緩やかになってくれたようだ。
こんなに大きくなったにも関わらず、服は変わりなく着ることができている。身につけているものも一緒に大きくなったのか。ただわたしが巨大化しているだけではないようだ。そもそもなぜ大きくなってしまったのだろうか。この現象は本当になんなんだ。しかしこのままここで悩んでいても、誰かに見つかってしまう可能性がある。早いとこ、次の行動を考えなければ。
必死に頭を悩ましていたせいで、周囲への注意が不足していたらしい。
「……牛膝?」
背後から呼びかけられる。しまった。見つかってしまったからには、よくわからないとこに連絡され、よく分からない研究所に送られ、よく分からない実験のモルモットにされてしまう。どうしたらいいんだ。逃げるにしても、どこに逃げたらいいんだ。
しかし、事態は予想していない方向に面倒なことになっていた。
「すごいね牛膝、第三次成長期がきたのだね! 私よりも小さかった牛膝がこんなに大きくなってくれて、嬉しい限りだね!」
どうしてこう、予測できない動きをするんだ、本田原。
「なんで公園にいるのさ」
「お互い様だと思うね」
確かにそうかもしれないが。本田原は私の姿を疑問に思わないんだろうか。思っていないんだろうな。
「まあ言ってしまうと、特に理由はないね。なんとなく来なければならない気がしただけだね」
本田原もここに来た理由がわからない? 本田原が来たのも、偶然ではないのか。確かに、他は誰にも会うこともなく、ここまで来ることができた。本田原が、この現象に関係しているということだろうか。
だとしたら、心当たりがある。それしかないといってもいい。普通に考えるとあり得ないことだが、異常事態に常識を持ち出しても仕方がない。
「それにしても、本当に大きくなったね牛膝。やっぱり、例の説は正しかったのだね」
てきとうな思いつきを説とか言うな。そう、おそらくこれは成長ではなく膨張なんだろう。どういう原理かわからないが、本田原が「人間も膨張する」と言ったことで、実際に膨張してしまったらしい。はた迷惑すぎる。
しかしなぜ、本田原は無事なのだろうか。本田原には、本人も気づいていない超能力があるとか? その非現実的な力が、自分は傷つけず、わたしだけを膨張させたとか? だが、他に膨張している人間も見当たらない。まあ、こんな超常現象に理由も何もないが。
「牛膝は、まだ大きくなり続けているのかい? このままだと宇宙にだって行けてしまうね。宇宙旅行の際には、ぜひお見送りさせてほしいね」
縁起でもないことを言うな。宇宙では呼吸できないことを、本田原は知らないのだろうか。
まあ、原因がわかったなら、あとは解決策を探すだけだ。本田原の発言でこんなことになっているんだ。単純に考えるなら、その言葉を訂正するか、もしくは正しいことを言い直させれば解決しそうだが。そもそも、そんな単純でいいんだろうか。それが裏目に出て、一気に宇宙旅行に旅立つことになってしまったらどうしよう。
人が必死に考えている間にも、本田原は話し続ける。
「そういえば、さっき時間が足りなくて話していなかったのだけどね。例のドキュメンタリー映像には続きがあってね。なんと、月の重力は地球の六分の一しかないらしい。宇宙には重力がないというから、地球の重力はゼロの六分の一、つまり重力はないということだね。まさにゼロ・グラビティの世界だね」
観たことがないなら、例にださないでほしい。というか、今なんと言った?
「重力がないことを発見するなんて、ニュートンを超えてしまったね。引力は万能でも、ニュートンは万能ではなかったというわけだね」
一文で齟齬をきたさないでほしい。それに引力は万有だ。いやそうじゃない、待て待て待て。本当に本田原の発言のせいで、私が膨張しているとしたら。次は重力が消えてしまうのではないか。重力のない状態で膨張なんてしてしまったら、それこそ縁起でもないことになる!
これで解決するかはわからないが、もうやってみるしかない。裏目にでることがないようにだけ祈っておく。わたしは膨張した肺で思いっきり息を吸い込み、声をはりあげる。
「いいか本田原、宇宙は膨張しても人間は膨張しない! 膨張しているのは銀河と銀河の間の距離だけだ、個体が膨張することはない! これこそが宇宙の真の真実だ!」
叫んだ瞬間、膨張が止まった。数秒間を開けて、収縮が始まった。そこから十を数え終わるころには、完全に元の大きさに戻ることができた。無人だった公園も、いつの間にか小学生が楽しそうに走り回っている。
「なんだ、人間は膨張しないのだね」
ちょっと悲しそうに、本田原がつぶやく。たしかに九割九分九厘は本田原のせいだったが、わたしが最初にちゃんと教えていれば起こらなかったはずの出来事だった。申し訳なさを感じないこともない。
「……その、さっきはちゃんと言わなくてごめん」
「いいよ」
本田原は基本的に善人である。馬鹿なだけで、悪いやつではない。しっかりと謝罪をすれば、なんなら謝罪をしなくとも許してくれる。それが逆に、申し訳なさを感じさせることも多いが。現に今、申し訳なさが増幅してしまっている。
わたしの心情も知らず、本田原はうれしそうな表情でこっちを見つめる。
「ふふ、牛膝は頭が良いね。さすが私の親友だね。よければこれからも、いろいろ教えてほしいね」
やめて、これ以上申し訳ない気持ちにさせないでほしい。別にわたしだって、そんなに頭がいいわけではないし。ここで親友とか言い出すの、善人すぎるだろう。
本田原は満足そうに、大きく伸びをして、にっこりと笑った。
「それにしても、そんなに優秀だと、ロシアやソ連のスパイに狙われてしまいそうだね!」
前言撤回、やはり本田原は悪だ。
後ろの草むらで、何かが動く音がした。
このあとめちゃめちゃ訂正した。
文章力がアレすぎたんでちょっとだけ自主解説いいですか?!?!??!!
いいよ!やったー!!(メンタル強者)
普通に解説なので本文読まないとわけわかんないやつです!
気が向くまで公開なので恥ずかしさで死にそうになったら消します。
非現実的な力を持ってたのは本田原じゃなくて牛膝です。
牛膝が、本田原の発言を聞き、訂正しないことによって、
本人も気づいていない超能力が働きます。
九割九分九厘牛膝のせいのお話でした。
何故本田原は膨張しないのか。
「本田原は人間なのか怪しいところ」と牛膝が思ったからです。
本田原は「ならなぜ、人間は膨張しないのだろうね?」、
と言ったので、『人間』である牛膝しか膨張しませんでした。
もし本田原が非現実的な力を持っていたとしたら、
二人そろって膨張していました。
めっちゃ無理やり詰めたとこなので、特に文章がよろしくないですね。
何故二人のほかに人がいなかったのか。
「牛膝なら、むやみに広めることもない」と本田原が言ったためです。
見つかれば、広まってしまいますからね。
バスが遅延しなかったのも、
本田原が「そろそろのバスが来る時間」と言ったからです。
バスはしっかり定刻通りにつくことになりました。
何故本田原の発言を聞いて訂正しないことによって不思議なことが起こるのか。
牛膝は本田原を特別な存在と認識しているためです。
もともと能力があったのが、本田原によって引き出された感じです。
話の外であっただろう勉強会などではちゃんと答えを訂正していたので、
本田原の誤った答えの方に世界が変わったりすることはありませんでした。
そのため、
基本は訂正しなくていいかなという発言≒アホ発言が対象となったのです。
ちなみに。
牛膝は本田原を人間ではなくて予測不可能な言動をする≒馬鹿と認識しているため、
好奇心旺盛で日々学ぶ努力をしている本田原がいつまでたっても馬鹿なままなのは、
牛膝のせいです。
そのうえ善人で親友だと認識しているので、本田原は牛膝の理想の本田原のままです。
また、今回の件で牛膝は
「本田原は自分の身を守る能力を持っている」、
「本田原の発言を訂正しなければ超常現象が起こる」
と認識したため、なんだろ、二人はこのままなんじゃないかな。
読み返してもハァ~~~~?って感じでわけわかんないですね!すみませ!
絶対おかしいなってとこあると思います!わかる!わかるけど許してほしい!
なんかこう、こういうのが書きたかったんだ~ってのが伝われば幸いです。
伝われ―!

関係ないですけど、「魔法のびんの中身~」の記述、
急に言われてもハ?って感じでしたね。すみません。
ルイス・キャロル『ふしぎの国のアリス』からでした。
許して!